小説CLUB『 Lyrical Essay・我が愛する男たちよ!』
川田あつ子

貴方の笑顔は私の元気 友達だから どうか

 おっとっとっと、そんな顔して俺様を見つめるつもりかい。アンタのそんな顔は全然好きじゃないんだがね。やめてくれよ、そんなに膨れちゃ嫌だぜ。全然可愛いと思わねえし、全然綺麗にゃ見えないな。
 駄目だ駄目だ、他人のせいにしいちゃ。駄目だ駄目だ、運も不運もあるもんか。諦めるな。言い訳するな。そいつは本当のアンタじゃないだろう、もっと大きく構えて見せろよ。
 
 おっとっとっと、今度は涙かよ。俺様に泣き顔まで見せるつもりかい。一体、今日のアンタはどうしちまったんだい。いつものように、明るいアンタに戻って、素敵な微笑みを俺様にしっかり映してくれないかい。昨日までのアンタは、俺様にいつも夢を語ってくれたじゃないか。アンタの夢は、俺様の夢でもあるんだぜ。素晴らしいと思うよ。何時かアンタが大空を舞い上がり光り輝く時を待っているんだから、願っているんだから。その時俺様は、アンタを世界一美しく、世界一可愛らしく、世界一優しく、映し出したいんだよ。左右が逆で悪いけど、まあそこは、ちょっぴり大目に見てもらうことにしてさ。

 だからほら、笑え笑え。何があったか知らないけれど、そんなものアンタの笑顔で、総べて吹き飛ばしてしまえよ。アンタなら出来るはずだ。
 
 おっとっとっと、涙がこぼれちまったな。まぁ俺様も大好きなアンタにゃ弱いから、笑顔で俺様に、アンタがまたアンタの夢を語りかけてくれる日まで、しばらくじっと待ってやるよ。

 チャイムが鳴ったな。
 呼んでるぞ。また鳴った、また鳴った。ほらっ、俺様に負けないくらいアンタのことが大好きな、アンタの大切な友達が、あの娘が、心配して訪ねて来たよ。さあ負けないで、元気出せ出せ。

 彼女だ、彼女が訪ねてきてくれたよ。親友なんだ。私の一番大事な友達。でも、今日の私じゃ会えないよ。だって今の私は、実際情けないくらい格好悪いし、弱々しすぎちゃって、まるで病人のようなんだもの。それに話しをしたって、結局彼女は何も出来るはずが無いし、私自身の問題だから、どうすることも出来ないもの。

 葉書をくれるんだ。何処かへ行くと必ず。小さなお土産と一緒にいつも会いに来てくれるんだ。優しくて、可愛くて、みんなが彼女を愛している。
 
 電話をくれるんだ。何かあると必ず。ねえ、さっきも鳴っていたでしょ。きっと何処かで私のこと聞いたんだよ。だからすぐに電話をくれたんだ。嬉しいよね・・・。でも今日は、出れなかった。留守電にもしておかなかったんだ。
 でもね、彼女と友達でいること、私の一番の財産だと思う。それは本当だよ。だけど今は、独りになりたい、独りでいたい。

 おっとっとっと、よく言う。それは本心じゃないね。俺様には解るけど、だってほら、みて見ろよ、チャイムが鳴ってアンタの顔が気持ち紅潮してるじゃないか。瞳が生き返ったじゃないか。

 会って話しがしたいだろう。顔を見て安心したいだろ。例え何も解決出来なくても、それだけで十分だろう。他に何を望むんだ。立場が逆ならアンタは彼女にそれ以外、例えば何がしてあげられるんだい。

 ほら、またチャイムが鳴ったよ。彼女の気持ちに答えろよ。アンタたちは、この世で一番大切なものを見つけることの出来た、幸福な人間だと、俺様は思うけどな。急げ急げ。俺様に映っているアンタはもう、微笑みはじめてるじゃないか。
 わかったよ。その通りだね。彼女は私の一番大事な大切な友達だもんね。

 おっとっとっと、感謝の言葉を忘れちゃないかい。まぁいいか。どうやらすぐに、アンタの笑顔が見られそうだから・・・。

 友達って大事、何よりも大切、自分の親や兄弟、本当に家族のように、時にはそれ以上に、大事で大切だと思う時もある。それは決してお金なんかじゃ買えないものだから。

 今でも時々、私は私の目の前に居る”俺様”と、そんな話しをすることがある。
 貴方の笑顔は私の元気、友達だから、どうか。


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