窓辺にて    川田あつ子


「パラパラと雨が舗道を濡らしている
雨が風に舞っている
まるで生きているかのように、自由自在に風の中を舞い踊る。
そして…
それが やがて冬の華に姿を変える 真っ白な綿のように真っ白な雪に」

 暖かな部屋の窓辺から少し汗をかいた後、Tシャツ一枚で冷たいミネラルウォーターを片手に、
汚れてしまった傷ついてしまった都会の街が少しでも美しく、少しでも優しく雪に化粧されていくのを
私はただぼんやりと見ている。

 さっきまで誰かの素敵なメロディーが流れていたはずのRadioから、
いつの間にか もう慣れっこになってしまった世界中の異常気象のNwesが流れている。
 そんな時、何故だろう。私はいつも塞いでいるときの自分を感じてしまう。
幸福に包まれている時でさえ、そんな時はやっぱりBlueな気分で思いにふけってしまったりする。
 臆病者なんだろう。幸福に怯えてしまうんだろう。

 騙したり裏切ったりは絶対にしたくないから、絶対に嫌だから出来ないと自分では思うけど、
もしかしたら知らないうちに、結果的にそうなってしまっていたことがあるかもしれない。
 そんな不安もある。
 だけど、もっともっとそれ以上に、騙されたり裏切られたり、
何の話し合いもなしに突然オルゴールの蓋を閉じるように手のひらを返されたりするのは
とても嫌で、そんなことがあると私は完全に冬の状態になってしまう。

 何かにつまずいたり、倒れたり失恋したり、
でも そうなる過程があったとしたら、
こころの中のエネルギー表示はゼロになるだけ。
それでもそれは、それなりに辛いことであり、やっぱり冬の状態に変わりはないのだけれど、
エネルギーは注がれていくので、そういう時は春の状態になるまで、そうは時間はかからないもの。

 でも それがそうなる過程もなしに、そうなる理由もわからずに、なにしろ突然に訪れた時。
 例えば昨日まで 「愛している」と言っていた、くちびるが
突然 「さようなら。もう一緒にはいられない。」 とか動いたりする。
 
 そんな小説の書き出しじみた場面に出会ったりすると、心の中のエネルギー表示は、
もう マイナス120%とか、訳のわからないところまで落ちてしまったりして、
誰も信じられなくなって誰も信じたくなくなって、昨日まで目に飛び込んできて優しくなれたり、
感動出来たはずの、舗道の端の小さな名も知らない花等には一切目がいかなくなり、
心も まるで動かなくなる。
 そして そういう自分に気づいたとき、本当に自分が嫌になって、完全な自己嫌悪状態になってしまう。
 
 もっとも気づくまで三ヶ月、六ヶ月、長いときは一年、それ以上と時間が必要なときもあるのだが、
そういう冬の状態、心の中のエネルギー表示120%状態というのは、
本当に心の中に大きな大きな穴があいてしまっているようなもので、季節に関係なく心にピューピュ−と
木枯らしが吹き込んでくる感じで、寒くて凍えそうで、もう それは完全にFreeze状態ということ。

 でも私の周りの人達はそんなこと、何も知らないくせに、みんなで寄ってたかって
その穴を埋めてくれたりするので、嫌んなっちゃうくらい、本当に たまらないくらい嬉しい。
 幸いなことに、人の前で落ち込んでいるところを見せるのが好きではないので、頑張ってしまうために、
あまり人には悟られない。親友と呼べる友達をはじめ、友達や自分を応援してくれる人達。
 そして私の大切な家族。
そんなみんなの力で、私は頑張れるんだって思う。
そういった意味で私は本当にみんなにみんなに感謝している。

 そして こういう気持ちでいる時、出逢う人に結構いい人がいたりして、
こんな素敵な出逢いと巡り合うために、あんな辛いことがあったんだとか勝手に思ったりする。
 それでも心の中のマイナス状態のエネルギー表示をゼロに戻すだけでも
かなりの精神力がいるもので、自分の弱さにあきれたりする。
 
 だから私は、何となく こんな風に思うことで自分自身を勇気づけたりしている。
傷ついてこそ人間として美しくなれるんだって。
幸福と不幸が同じ数だけ巡るととしたら、どんどん不幸は使い切ってしまうといいはずだって。
 今がどんなに辛くて、どんなに大変で険しい道の途中にいるとしても、とにかく前に前に歩いていくしかない。
引き返したり怖がって立ち止まったり、しゃがみ込んで震えてしまうようなことだけは決してしてはいけない。

 だって そこがどんなに真っ暗なトンネルの中だとしても、必ず出口はあるんだもの。
思い切って試行錯誤して悩みながら歩いて歩いて、そして出口の光を見つけたら、
駆け出して勢いよく飛び出して、太陽の日差しを身体いっぱい浴びて、空に手が届くほど グーンと背伸びをして、
幸福を胸いっぱい吸い込むんだ。
 それは素敵な人との出逢いであり素敵な仕事との出逢いであり、素敵な自分との出逢いでもあるはずだから。
 精いっぱい自分を賭けられる何かが見つかったとしたら、それは限りない幸福のスタートだと思うから。
 
 そして自分を裏切った何かが、手のひらを返して去っていった誰か、そんな相手に対しても、
自分は昔と変わらずに その相手のことを想うことが出来る。
恨んだり憎んだりせずに大切に相手のことを考えている。そんな自分に出逢えたとき、本当に嬉しくなる。
 何ヶ月も思い悩んだこと、眠れない夜を数えたこと、そんなことが みんな私のエネルギーになっていくんだって。
両手を広げて抱きしめたエネルギーはとても温かく、そして優しかった。
 だから きっと心のエネルギー表示はプラス120%!今の私は幸福で、そして元気である!!

 窓越しに頬づえついて そんなことを考えているうちに、Radioは私のお気に入りナンバーを流し始めていた。
 外の景色はすっかりと雪化粧されて、ロマンチックな そして静かで優しい夜の街に姿を変えていた。
 
 私は残っていたミネラルウォーターをすっかり飲み干して、
Radioのボリュームを少しだけ大きくして、今度はBedに転がった。このまま眠ってしまうかもしれない。
 外は静かな雪の夜だから…

「まだ 雪は降っている。 
真っ白な綿のような雪が
だけど
それは明るく楽しそうで 今夜は優しく雪たちの
待ちに待った
オールナイトパーティーなのかもしれない」


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