フラッシュバック
     
夢の中のおじさん        川田あつ子


 今年の夏は暑かった。
 でも全国で唯一、35度以上を記録しなかったのが、沖縄だというのがとても不思議な気がしました。
不思議といえば、数年前、北海道でロケをしたときに、こんなことがあったのです。

 札幌で仕事を終え、一頻り大騒ぎしたあと、明日に備えて余り羽目を外さないうちに、
独りでホテルに戻りました。部屋に入ると、やっぱり疲れていたのでしょう。
すぐに、ぐっすり眠り込んでしまいました。

 夢を見ました。
 古いピアノ、ひたすらグラスを磨いているバーテン、薄暗い 、そこは場末のジャズバーのようでした。
白髪交じりの鼻の大きいおじいさんが、そのカウンターで頷いていました。
私と目が合うと、今度は解ったような顔をして、優しそうに微笑みかけてくるのです。

 その頃、公私共に何か矛盾を感じていた私は、何故か とても苛立って
 「何がそんなにおかしいのですか?」 そういうつもりで近づいていきました。
すると今まで場末のジャズバーのようだったその場所が、果てしなく広がる大草原に姿を変えたのです。
私はおじいさんの前に、ただ 佇んでいました。

 「何処に行くのか尋ねちゃ行けないよ…流れに任せて…風のように…
流れ着いた先にあるもののことは、楽しみに待ちなさい。力まず、力を抜いて楽しみに待ちなさい」
 
 おじいさんは、そう諭すように語り掛けてきました。

 「エッ!」言葉にならない声をあげると、
 「大丈夫だよ」そう言い残して、スーッとおじいさんは消えてしまったのです。
今でも鮮明に覚えている不思議な夢でした。

 その夢の結末は翌日でした。
 移動中の列車の窓に広がったのは、夢の中の大草原!!
そして、無人駅を通り過ぎるとき、私が見たのは、ベンチに腰をかけた昨日の夢のおじいさんだったのです。
 それからの私は、流れに任せ、力まずに歩き続けている気がします。



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